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包丁の価格

包丁の価格には安いものから高いものまで、数倍の差があります。プロが使う包丁でも、1万円台のものもあれば、本焼の刺身包丁のように20万円を超えるものあります。和食の料理人が本格的な包丁を5本揃えるとなると、安くても10万円、高ければ50万円以上もかかります。

そうなると、出来るだけ安く取り揃えたいと思うのが普通です。でも、ちょっと待ってください。料理人の仕事はおいしい料理を提供することです。良い包丁を使ったほうが料理は美味しくなり、調理時間も短縮することが出来ます。料理の質が落ちることがわかっているのに、あえて安い包丁を選択するのはもったいないことです。そもそも、包丁(を含む刃物)はプロが使う道具の中ではもっとも安いと言われています。プロとして得る対価を考えれば、包丁への投資額は安いものです。

實光では、作る料理の種類や量によって、種類と鋼材から包丁を選ぶことをお勧めしていますが、同じ種類、同じ鋼材でもいろいろな種類があります。その中で、出来るだけ品質の良いものを買うほうが、結果的にご満足いただけると考えています。その理由は5つあります。

1.味が良くなる

切れ味の良い包丁を購入することで、料理の味が良くなるのをご存じですか。お刺身はもちろんのこと、刺身のつまとして使われる大根の細切りや、玉ねぎスライスなどを食べてみると良くわかります。切れ味の良い包丁で切ったお刺身は、断面がなめらかで、切り口の角が尖っています。素人であるお客さんから見ても、この違いは歴然で、「このお刺身は角が立っているね」などと言われます。そして、この角が立っているお刺身は、見た目も良いですが、味も良いのです。

味が良くなる
切れ味の良い包丁で切ったお刺身は角が立つ

魚でも肉でも野菜でも、食材は繊維や細胞といった構造を持っています。いずれも、繊維質の膜が、旨味を含む液体を包み込んでできています。切れ味の悪い包丁を使うと、食材を切るときにこの繊維の膜を破ってしまい、取り込まれている水分や旨味が漏れ出してしまいます。そのため、調理の途中で旨味が逃げ出し、味が落ちてしまうのです。

切れ味の良い包丁を使うと、刃先が触れたごくわずかな繊維しか破壊しないため、旨味が逃げ出す量を最小限にとどめることが出来ます。これが、切れる包丁だと味が良くなる、と言われる理由です。

料理がおいしくなれば、お客様の満足度が高まり、結果的に何度も来店してくれるかもしれません。1か月で1万円でも売り上げが増えるなら、年間で12万円、10年で120万円の売り上げが増えるということです。控えめに言っても、良く切れる包丁にはそのくらいの力があります。料理人が自分の調理技術以外で料理の味を美味しくする方法は、料理の素材と包丁くらいしかありません。そう考えると、包丁に数十万円の費用をかけるのも決して高い買い物ではないのです。料理長クラスの料理人が数十万円する本焼を購入するのは、それをよく理解しているからです。

  • 切れ味の良い包丁で切った断面
    切れ味の良い包丁で切った断面は繊維がつぶれていない
  • 切れ味の悪い包丁で切った断面
    切れ味の悪い包丁で切った断面は繊維がつぶれて旨味が逃げている

2.手間が減る

高い包丁を使うことで得られる二つ目の価値は手間と時間の削減です。当たり前ですが、切れる包丁なら切る時間が短縮されます。これは特定の食材を良く切る場合に専門包丁を購入するのも同じような理由です。毎日2時間かかっている仕込みが、包丁を変えることによって、10分短縮できるとしたらどうでしょうか。1年の営業日が約300日なら、なんと50時間の節約になります。また、和包丁については、良い包丁を購入すると、研ぎ時間も短縮できます。同じ鋼材を使っていても、安い和包丁は立体構造がいびつであるものが多く、うまく研げず、研ぎ時間が長くなってしまう傾向があります。良い和包丁は立体構造が綺麗にできているため、研ぎやすいのです(あくまで相対的な比較です。)。その分、研ぎ時間が短縮されます。

3.演出力が高まる

三つ目の価値は、見栄えによる演出力です。これはお客様に調理を見てもらうカウンターキッチンに限られた話ですが、見栄えの良い包丁は、お客様からの評価が上がります。やはり、自分が食べる料理が、特別な包丁、特別な道具で造られていると感じると、料理への信頼感も増すものです。料理長クラスのベテラン向けではありますが、實光のブランド包丁はそのような意図をもって制作されています。

オープンキッチンなら演出力の高いブランド包丁を
オープンキッチンなら演出力の高いブランド包丁を

4.寿命が長い

四つ目の価値は、寿命です。安い包丁は寿命も短いのです。特に合わせ包丁の安いものは、鋼部分が少ないものが多く、研ぎによって鋼がすり減ってなくなってしまいます。早いものなら、1~2年で使えなくなることもあります。安く購入できたとしても、寿命が短ければ割高な買い物です。さらに、寿命が近づくにつれて、徐々に切れ味が落ちていくのも問題です。快適に使える時間はもっと短いということになります。鋼の本焼なら、鋼がすり減ってなくなるまで使うことが出来ます。20年くらい使う方も珍しくありません。そのくらい、包丁の寿命には差があります。

寿命が長い

新品と20年後の比較

20万円の本焼を仮に20年使ったとすると、1年で1万円、1か月あたり900円程度のコストです。これを出刃包丁、刺身包丁、薄刃包丁の3本購入したとしても2,700円。携帯電話の通信費用よりも安いということです。包丁は、プロが使う道具の中では、もっとも安く最高級品が手に入ると言えるでしょう。

また、料理人の腕が上がってくると、造りの悪い包丁に不満を感じるようになります。同じように研いだとしたら、良い包丁の方が良く切れますし、その切れ味を長く維持することが出来ます。安い包丁は、もっともよい状態であっても、良い包丁と比較すると切れ味は劣ります。また切れ味が悪くなるのも早く、頻繁にメンテナンスや買い替えが必要になります。そうなると、まだ使える包丁でもより良いものに買い替えたくなるものです。

5.アフターサービスにも注目

良い包丁を購入するなら、アフターサービスの違いも考慮しましょう。良い包丁を造っているメーカーであれば、たいていアフターサービスもしっかりしているものです。しかし、細かく見るとサービス内容にも違いがあります。

特に注意しなければならないのは研ぎ直しです。実は研ぎ直しといっても段階があり、刃先だけを研ぐ刃付けと呼ばれる研ぎと、包丁全体の構造から修正する研削と呼ばれる研ぎがあります。包丁の研ぎ方や使い方が悪いと、包丁の構造が変わってくることがあります。そんな時は、刃先だけでなく、研削レベルの研ぎ直しを行い、包丁全体を作り直す必要があります。土台から作り直すため、欠けたり、錆びたり、歪んだりした時でも、修理をして新品に近い状態に戻すことができます。この研削レベルの研ぎ直しに対応してくれるメーカーのものだとより安心できます。
(實光は研削レベルの研ぎ直しに対応しています。)

また、お店に持ち込んで話を聞きたい場合は、近くにお店があるかどうかも重要です。實光なら、東京の合羽橋、大阪の梅田、難波、堺に実店舗があります。

アフターサービスが良いほうが寿命も長くなるため、よりコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。

以上のことから、予算を理由に安い包丁で妥協することはお勧めしません。特に、初めて包丁を購入する場合は、当初の想定予算で選ぶものよりも、1段階か2段階高い包丁を購入することをお勧めします。その方が、包丁を使う腕前も上がりやすいと言われています。

包丁の選び方 上級編

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