私は堺生まれ、堺育ち、牡羊座のB型です。名前の「俊行」は二代目祖父の名前「俊逸」から「俊」を譲り受けて「俊行」になりました。祖父が後継ぎが出来たと喜んで自分の名前をくれたそうです♪
私は大学卒業後、刃物屋で修行をし、家業の實光で働き始めました。父である三代目より60歳の誕生日になったら「次はお前の時代や」といわれ続けて、三代目が60歳になった時(私が31歳の時)四代目になり会社を受け継ぐ事になりました。
自営業を継ぐという事は世間的には仕方なく継いだというイメージがあるかと思いますが、私の場合は包丁が好きで好きで、継いだという感じです。ここでは堺包丁、そして實光刃物を知ってもらいたいという気持ちから、私がどのような人物で、またどんな想いで包丁を作っているのかを知っていただきたいと思います。少し長くなりますが読んでいただけると嬉しいです。
實光は堺の偉人 千利休の「一期一会」の精神で、ひとつひとつの物事を「一生に一回限り」と思って大事にしています。
實光家は100年以上続く刃物屋でお爺ちゃん(二代目)、お婆ちゃん、父(三代目)、母、姉、弟と私の7人の大家族、三世代で實光の後継ぎとして幼い頃から包丁に囲まれて育ちました。三代目は職人の中の職人といった感じで、ほとんどしゃべる事は無く厳格な人でした。その反面、母は大阪のおばちゃんといった感じの笑顔としゃべる事が大好きな「おかん」です(笑)
そんな實光家は私が言うのもなんですが、本当によく働いていました。私が小さい頃は注文をたくさん頂いて製造が追いつかず、夜中まで包丁を作っていた日があるほど忙しかったです。そんな環境をずっと見て育った私は何かあると自然に手伝う、またどうしたら作業を早くできるのか、というような事を無意識でしていました。この時の経験が今の手の器用さなどにつながっているのかなと思います。
野球をしたら4番でピッチャーを任され、サッカーでは堺市の選抜メンバーに選ばれるくらい周りから期待されるスポーツ少年だったのです。
特にサッカーでは自分のチームとは別に選抜の練習、試合にも出ていたので、いつも母には県外まで車で送り迎えをしてもらいました。それもほとんど毎週のように。試合を見ている母は人一倍大きな声で応援するので当時は恥ずかしかったですが、今では本当に感謝しています。あんな経験が出来たのも、母のおかげです。
ありがとう!お母さん!物心付いた時から家業の手伝いをしていました。すごく忙しいのをずっと見ていたので、手伝いをするというのは当たり前という感じでした。小学生の頃は包丁を箱に入れるなど簡単な手伝いでしたが、大学生になるころには包丁の製造など、どのように出来ているかなどは一通り分かっているつもりでした。
大学生の頃には父からのアドバイスで「包丁を使う側の気持ちも分からなアカン」と言われ、小料理屋でアルバイトを始めました。アルバイトはとても楽しく、手先が器用な方で料理もお客様に喜んでもらう事ができ、先輩方にも「上手いもんやな」、「もうここに入社したらええやん」とまで言われました。そして社会人になり實光に入社し、営業の仕事も始めました。父からは「自分で得意先を探してこい」と言われ、一冊の電話帳を渡されました。毎日どの地域を何件周れるか地図を見ながらルートを決め、1日15件以上、営業経験ゼロの右も左も分からない状態で数百件も周りました。最初はまったく相手にもしてもらえませんでしたが、何度か通うちにまだまだの私を試すためにいろいろ厳しいご指摘や多くの質問を頂ける様になりました。そうしていると取引して頂ける得意先も出てきました。この時の経験が私を大きく成長させてくれました。
そして包丁研ぎの作業をさせてもらえるようになって、今まで父親の背中を見て育ってきた自分が同じように肩を並べられる存在になったのだと、職人としてのスタートラインに立ったと思っていました。しかし職人の世界というものは簡単にアドバイスをもらい、そのとおりにするという世界ではなく、「アカン」とだけ言われ、何百回、何千回やっても、うまく出来ませんでした。やればやるほど肩を並べたと思っていた父親の背中が遠くに感じられました。
その他にも色々な職人が仕上げた包丁を確認して良し悪しを見なければなりません。包丁は手造りなので一本、一本、仕上がりが全然違います。出来が良いものがあれば中にはダメな物もあります。それを見る眼も全然ありませんでした。自分が出来ると思っていた事がまったく出来ない、本当に恥ずかしかったです。そこから父親の作業を真剣に見るようになりました。道具の一つ一つを見て、何でこの道具を使うのか、これを使ったらどうなるのかを徹底的に盗みました。三代目は一本の包丁を仕上げるのに丁寧過ぎるくらい丁寧に何度も同じ作業をします。当時の私は、そこまでする必要があるのか?見た目が同じなら少しくらい手を抜いた方が効率いいのじゃないか?と思っていました。ですが、ここに何かヒントがあると感じたので、私も同じ道具を使わせてもらい何百回、何千回と同じ工程をしました。
そうすると、工程の中でこの道具はこう使うのか、だからこの作業の間に入れるんだ、そして私は職人としての仕事、営業としての仕事の両方をしていました。そんなある時、売上の40%ほど締めていた得意先との契約が解除され、売上が急激に落ちました。正直倒産寸前でした。その頃も営業に行ってはいましたが、売上をカバーできるほどの成果はありませんでした。この時は営業に行ってもうまく行かない、良いと教えて頂いた事を実践しても結果が出ない・・・どうしたらいいんだと悩みながらも丁寧に包丁を仕上げていました。
正直、倒産寸前でした。。。
今思うと私が實光で働いていて一番のどん底でした。その頃は子供が2人(男の子)いたのですが、この子たちをちゃんと育てられるのか本当に悩みました。また、實光包丁を次世代に繫ぐ事が本当にこの子たちのためなのか、私の代で終わらせる方が良いのではないか、という所まで考えました。現在、私は先代から受け継いだ技術に更に磨きをかけています。どのようにすればお客様に喜んでいただけるかを毎日考えて包丁を作っています。個人的なことですが、目に入れても痛くないかわいい女の子が生まれ、家族も増えました。(息子2人と娘1人になりました。)
堺打刃物(さかいうちはもの)は伝統工芸品でもあります。どの伝統産業の世界でも今はだんだんと右肩下がりになり、後継者問題があり、その伝統産業がなくなってしまうのではないかという不安に包まれています。その暗い空気が若者を遠ざけ、業界自体を弱らせる悪循環を招いていると思います。
そんな状況を打開する為に實光は2014年に刃物工房、ショールームをオープンさせました。今までの包丁屋のイメージを覆すような和モダンで、製造工程も外から見えるような店構えにしました。ショールームでは実際に包丁を手に取り、重さ、長さ、食材を切って体感しながら、選ぶ楽しさも伝えたいと思っています。
このショールームは堺包丁の未来を明るい空気に包みこみたい、若者がかっこいいと思って欲しいという意味をこめています。そして将来的には工場も大きくし、若い世代に技術の継承を積極的にして行きたいと思っています。大きな夢を語るようですが、實光がリーダーシップを取り、堺包丁を世界中の人が知るブランドにして行きたいと思っています!
その大きな夢のためには、毎日こだわりを持って最高の包丁を作ることが私にできる最善で最大のこと。その土台が揺らぐことはもうありません。一緒に仕事をする仲間と實光の包丁をお客様にお届けし、「食事で笑顔あふれる食卓になるような」お手伝いをしていきます。實光の理念でもあります「一期一会」の精神でお付合いさせて下さい。
そして、それを次の世代に技術を継承し、100年以上続いてきた實光をこの先100年も200年も続く強い会社にして行きたいと思っています。将来、堺包丁のブランドにあこがれて、若者が職人になりたいと言ってくれる人材を増やしていける力を作りあげていきます。
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