包丁を長く使い続けるためには、定期的な包丁研ぎが欠かせないのですが、「どうやって研ぐの?」「砥石の番手とは?」「どんな砥石が必要?」と疑問がたくさんあることでしょう。そもそも、包丁を研いだことが無い人やどのようにメンテナンスするのかを知らない人も増えているようです。包丁の切れ味を保持し、長く使うためには砥石で包丁を砥ぐことが欠かせません。
【砥石】は「といし」と読みます。「とぎいし」、「ていせき」と読まれることもありますが、包丁のメンテナンスに欠かせない道具です。この記事では、初心者におすすめの砥石の紹介、砥石の種類の解説、包丁研ぎの仕方や砥石の使い方について基礎から解説します。
包丁研ぎのプロ、明治33年創業、120年以上続く包丁メーカーの實光刃物の研ぎ師RYOTAが包丁研ぎを解説する動画もご紹介しますので、動画を見ながら包丁研ぎを実践することも可能です。記事と合わせてぜひご覧ください。
初心者におすすめの砥石とは、実は中級者レベルの方と大きく変わりません。なぜなら砥石は研ぎ初級者であっても、中級者以上の方でも同じように必要だからです。しかし、包丁研ぎをするにあたって、どのように選べばいいのか迷ってしまいますね。ここでは、初心者が購入すべき砥石を紹介しますので、自分の好みに合ったものをお選びください。
また、明治33年創業の實光刃物が包丁研ぎ修理を行なう「研ぎ修理サービス」についてもご紹介します。このようなサービスを知っておけば、自分で砥いだあと、切れにくくなってしまったり、思うように切れ味が戻らなくなったりした場合でもご利用いただけますので安心です。
包丁のプロ實光刃物がおすすめする砥石
ここからは、包丁研ぎ初心者の方に使ってもらいたい砥石について解説します。おすすめする砥石は下記の3種類です。
・1つで2役、リーズナブルな両面砥石
・包丁研ぎに必要な砥石が揃った砥石セット
・これから包丁研ぎを真剣に始めたい方はセラミック砥石
1つで2役、リーズナブルな両面砥石
砥石には様々な種類、番手があり、その番手は用途によって適切な番手があります。しかし、砥石をたくさん購入するのは大変です。そのため、包丁研ぎを始めてする方におすすめの砥石が両面砥石です。片面に中砥石1000番、反対面に仕上げ砥石6000番があり、この1つを使うだけで包丁研ぎが出来ます。
濃い茶色(ざらざらした面)が1000番の中砥石、薄い肌色(ツルッとした面)が6000番の仕上げ砥石です。
包丁研ぎに必要な砥石が揃った砥石セット
荒砥石・中砥石・仕上げ砥石が全て揃うセットです。そして、砥石を固定するのに便利な砥石台と砥石のメンテナンスに必要な修正砥石、さび取りにつかうサビトールが一緒についているので、このセットがあれば安心です。
家庭用の三徳包丁だけでなく、刺身包丁や出刃包丁など複数の包丁を砥ぎたい方にはこちらのセットがおすすめです。
これから包丁研ぎを真剣に始めたい方はセラミック砥石
セラミック砥石240番(荒砥石) | セラミック砥石1000番(中砥石) | セラミック砥石6000番(仕上げ砥石) |
セラミック砥石は、通常の砥石よりも高価な砥石です。しかし、研磨力が高いため、包丁研ぎがしやすくなります。また砥石が硬いので、砥石の減りが少ないため、砥石の寿命が長いと言えます。これから本格的に包丁研ぎをしたいと思っている方は、せっかく購入するなら包丁研ぎがしやすく長持ちする砥石を使うことをおすすめします。
實光刃物の包丁研ぎサービスとは?
實光刃物では、お客様の包丁をお預かりし、職人が包丁を研ぎながら全体のメンテナンスを行う【研ぎ修理サービス】を提供しています。このサービスは、家庭で研ぎができない方はもちろん、研ぎができる方にもぜひご利用いただきたいと考えています。
例えば、包丁を研いでも切れ味が改善しない場合や、特定の部分がうまく研げない場合など、包丁を直接確認し、原因を特定して切れる状態に戻します。このような問題は、多くの場合、包丁が少し曲がっていたり、研ぎ方の癖でわずかに変形していることが原因です。職人がこれらの問題を見極めて修正することで、その後の家庭でのメンテナンスや研ぎがしやすくなります。
包丁は長く使う道具であり、日常的な手入れが欠かせません。信頼できる包丁屋を「かかりつけ」として持つことは、大変重要です。
簡易シャープナーはつかってもいいの?
砥石で研ぐのが大変だと感じる方にとって、「シャープナー」は気になるところでしょう。包丁メーカーの實光刃物として、シャープナーを使ってもよいのかという質問に対しては、おおよそ「イエス」です。
おおよそというのは、お持ちの包丁に適したシャープナーで定期的に研ぎサービスなどを利用しながら、日常のお手入れとして簡易シャープナーを使用するのであれば良いという意味です。
なぜなら、シャープナーは包丁の刃先、数ミリを研ぐだけですので、砥石でしっかりと研いでいるのと同じではありません。そのため、切れ味がまたすぐ笑くなってしまいますし、ずっとシャープナーでしか研いでいなければ、切れ味は悪くなってしまいます。
1,2年に1回は實光刃物のような専門の研ぎ修理サービスを利用し、日ごろのお手入れとして1か月に1回ほどシャープナーで研ぐという使い方をおすすめします。
また、シャープナーには両刃用・片刃用があります。自分の包丁に合ったシャープナーを使わなければ包丁を痛めてしまう場合があります。家庭用の三徳包丁などの万能包丁は「両刃用」のシャープナーを、刺身包丁や出刃包丁などは「片刃用」のシャープナーを使用してください。
砥石の正しい使い方とメンテナンス
砥石は包丁の研ぎに欠かせない道具であり、その使い方とメンテナンスには特別な注意が必要です。適切に使用された砥石は、包丁の切れ味を長期間保つことができ、キッチン作業の効率と安全性を高めます。このセクションでは、砥石の種類、研ぎ方、そして砥石のメンテナンス方法について、基本から応用まで詳しく説明します。
砥石の種類と包丁を研ぐ際の正しい技術
包丁研ぎをする前に砥石の番手について理解しましょう。砥石には様々な種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。荒砥石、中砥石、仕上砥石など、用途に応じて使い分ける必要があります。實光刃物の砥石のご紹介も致しますので、用途に合わせて必要な砥石をお選びください。
砥石を使う順番
1. 荒砥石 → 2. 中砥石 → 3. 仕上げ砥石 |
1: 荒砥石(#80~400程度):刃の形を整えるために使います。包丁が欠けている時や包丁研ぎを長い間していなかったときは荒砥石から研ぎ始めます。頻繁に解く場合は中砥石から研ぎ始めて構いません。
スタンダード砥石#240(荒砥石) | セラミック砥石#240(荒砥石) |
2: 中砥石(#800~2000程度):最も一般的に使われる砥石です。包丁の切れ味を戻すために砥ぐときに使われます。包丁研ぎをするのに必ず必要な砥石です。
スタンダード砥石#1000(中砥石) | セラミック砥石#1000(中砥石) |
3: 仕上砥石(#3000以上):刃の仕上げに使い、表面をスムーズにします。仕上げ砥石には様々な番手の砥石があります。より繊細な仕上げを求める方は下記に紹介の砥石よりも大きい番手の仕上げ砥石をお買い求めください。
スタンダード砥石#6000(仕上砥石) | セラミック砥石#6000(仕上砥石) |
・ 砥石を十分に水に浸し、表面が完全に湿るまで待ちます。これにより、包丁が砥石上を滑らかに動き、砥石の摩耗も防ぎます。
・ 砥石を安定した平面に置き、滑らないように固定します。(砥石台を使用するか、砥石の下にタオルや布巾を置いて滑らないようにします。)
砥石を水に浸す、水をかける理由
砥石を使う前に水に浸す主な理由は、砥石が十分に水分を吸収することで、包丁の滑りをスムーズにするためです。また、水に含まれる砥石の粒子は研磨剤として機能し、包丁を鋭く研ぐことができるようになります。
砥石によっては水に浸す時間が異なりますが、一般的には約10分から20分が目安です。水に浸した砥石から気泡が出なくなったら、砥石が使用準備が整った合図となります。
必要な物をセットで購入したい方はこちら
實光刃物ではここまで紹介してきた砥石や砥石台などをセットでご用意しています。包丁研ぎに必要なものを手軽にそろえて、包丁メンテナンスができるようになりますよ。
包丁の研ぎ方
・ 包丁の刃を砥石に対して適切な角度(包丁によって変わる)で当てます。
・ 研ぎ作業中、砥石の表面が乾かないように、定期的に水をかけ続けます。これにより、刃の金属粉が砥石の表面に溜まるのを防ぎ、研ぎ効果を高めます。
・ 刃の全体が均等に研がれるように、包丁の先端から根元まで研ぎます。
・ 最後に、研ぎ終わった包丁を水で洗い流し、砥石を乾燥させます。
砥石で包丁を研ぐ際の刃の向きは
両刃の場合(三徳包丁・牛刀などの万能包丁)
両刃は両面に刃が付いているので、両面とも砥ぐ必要があります。表面を研ぐときは、45℃くらいに包丁を砥石にあて、押し出すときに力を入れ、引き戻すときは力を抜きます。裏面を砥ぐときは包丁を90℃にし、引くときに力を入れて押すときに力を抜きます。
片刃の場合
片刃の場合、しのぎの角度に合わせて砥石に包丁をあてます。砥ぎたい部分に指を置き、押し出すときに力を入れて、引き戻すときは力を抜きます。砥げているか確認するには、かえりが出ているかを確認します。切っ先からアゴまで砥げたら、裏面のかえりをとります。
包丁研ぎのポイント:砥石のメンテナンス方法
ここからは、包丁研ぎのコツについてお話ししたいと思います。同じように包丁研ぎをしていても、砥石の設置の仕方や砥石のメンテナンスの有無によって、上手に包丁研ぎができたり出来なかったりします。
包丁研ぎを安全に行うコツと砥石のメンテナンス方法について詳しく見ていきましょう。
砥石使用時の安全対策と面直しの方法
砥石を使用する際は、安全対策が必要です。砥石は滑りやすいため、安定した平らな面に置き、研ぎ作業中は手を滑らせないよう注意が必要です。
砥石を使う際は下にタオルや布巾などを置いて、砥石が滑るのを防ぎます。包丁研ぎで力を入れたときに砥石が滑って落ちてしまうと危険です。必ず始める前に確認するようにしてください。
また、砥石の面直しも重要なメンテナンス作業の一つです。面直しは、砥石の表面を均一に保ち、効率的な研ぎを可能にします。面直しをしないまま砥石を使用していると、中央部分がへこんでしまい、砥げなくなるので注意しましょう。
面直しは、専用の面直し砥石を使用して行うのが一般的です。おすすめはダイヤモンドの研磨剤で作られた「ダイヤシャープナー」です。面直し自体が消耗して変形しにくいため、面直しの水平な面を保ちやすくなります。
ダイヤシャープナー(中目) | 修正砥石#1000 | 修正砥石#280 |
修正砥石が減りにくいので、平を保ちやすくなります。取っ手付きで使いやすいタイプの面直しです。 | 荒砥石の修正に使います。 | 中砥石・仕上砥石の修正に使います。 |
面直しの仕方
1 砥石を湿らせる:砥石を水に浸して十分に湿らせます。
2 面直し石を砥石の表面に均等に当て、軽く圧力をかけながら前後に動かします。砥石の表面が均一になるまでこの作業を繰り返します。
3 表面が平らになったことを確認し、砥石上の残った粉を水で洗い流します。
面直しのタイミングと砥石の長寿命化
面直しは、砥石の表面が凹んだり不均一になったと感じるときに行うのが一般的です。しかし、實光の職人たちは、表面が凹む前に面直しをすることを推奨しています。これには二つの大きな利点があります。
まず、砥石が凹んでしまってから面直しをする場合、平らにする必要がある面積が広くなるため、作業が困難になり、かつ時間も長くかかります。一方で、凹む前に面直しを行えば、作業はより簡単で、時間も短縮されます。
加えて、砥石の中央部分が大きく凹んでしまうと、その部分に合わせて面直しを行う必要があり、結果的に砥石の摩耗が激しくなります。このため、凹んでから面直しをすると、砥石の寿命が短くなってしまうのです。定期的な面直しにより、砥石は長持ちし、最適な状態で使用できるようになります。
包丁は研ぐことで長く使えるサステナブルな料理道具
包丁はキッチンで最も重要な道具の一つです。しかし、多くの人が包丁の正しいお手入れ方法を知らず、早く使い物にならなくなってしまうことがあります。
実は、適切に研ぐことで、包丁は長持ちし、サステナブルな料理道具に変わります。砥石で包丁を研ぐことは、思っているよりも難しいことではなく、一度できるようになれば、ずっと包丁を良い状態にキープできるようになるので、大変便利なスキルになります。
砥石による包丁の寿命延長と資源節約
上記の写真は新品の砥石と研げなくなるまで使い切った砥石の写真です。
こちらの写真は新品のマグロ包丁と長年使って短く細くなった包丁の写真です。
砥石と包丁がこんなに長持ちするとは知っていましたか?多くの人が驚くほど、これらは長く使えるのです。
一般的に、多くの人は包丁が切れなくなったら新しいものを買うことを考えます。砥石についても、うまく研げなくなったと感じたら新しい砥石を購入するでしょう。しかし、実は包丁は繰り返し研ぎ、細く砥げなくなるまで使えます。また、砥石も非常に薄くなるまで使い続けることが可能です。
写真を見て驚いた人もいるかもしれませんが、適切なお手入れと使い方で、砥石も包丁も想像以上に長持ちさせることができるのです。
和包丁は研ぎや柄交換をして一生使える包丁
和包丁は、適切なケアを施せば、一生物の道具として使い続けることができます。歴史的に和包丁は、長く使える道具として重宝され、定期的な研ぎ直しでその性能を維持することが一般的です。研ぎ作業は和包丁の切れ味を最適な状態に保つために重要で、このプロセスを通じて包丁は長持ちします。
また、和包丁の柄は主に木材でできており、時間が経つと自然に痛むことがあります。柄が傷んだ場合、専門の包丁職人に柄交換を依頼することが一般的です。この職人による柄交換は、新しい包丁を購入するよりはるかに低価格で、環境にも優しい選択です。
砥石で包丁を研ぐ習慣を始めよう!
包丁を研ぐことは、料理の楽しさをさらに広げる大切なステップです。適切な砥石を選び、正しい使い方を身につければ、切れ味の良い包丁を長く使い続けることができます。初心者でも安心して使えるおすすめの砥石と基本的な研ぎ方をしっかり学ぶことで、包丁研ぎがぐっと身近に感じられるはずです。
今回ご紹介したポイントを参考に、ぜひご自身に合った砥石を見つけて、包丁を研ぐ習慣を始めてみてください。包丁の切れ味が変われば、料理のクオリティも自然と上がり、毎日の調理がより楽しくなることでしょう。
そして、何か包丁研ぎが上手くいかなかった場合やお困りごとがある場合は、實光刃物の【包丁研ぎサービス】をぜひご利用ください。定期的なプロのメンテナンスをすることで、切れ味がさらに良くなり、ご自身での包丁研ぎももっとしやすくなりますよ。